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横浜地方裁判所 平成8年(行ウ)56号 判決

原告

保谷忠夫

同所

原告

保谷洋子

右原告ら訴訟代理人弁護士

鳥飼重和

多田郁夫

森山満

舟木亮一

遠藤幸子

被告

川崎南税務署長 黒澤政夫

右指定代理人

戸谷博子

下岡守彦

森口英昭

佐野正美

横尾輝男

伊藤浩視

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が、原告保谷忠夫のした保谷三郎(平成四年二月一一日死亡)に係る相続税の申告に対し、平成六年七月二九日付けでした更正処分のうち、課税価格二億二七〇六万二〇〇〇円、納付すべき税額六八六〇万一二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

二  被告が、保谷タカのした保谷三郎(平成四年二月一一日死亡)に係る相続税の申告に対し、平成六年七月二九日付けでした更正処分のうち、課税価格二億九六四五万三〇〇〇円を超える部分、納付すべき税額全額及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、保谷三郎(以下「三郎」という。)が平成四年二月一一日に死亡したことに伴い、その相続人である原告保谷忠夫(以下「原告忠夫」という。)及び保谷タカ(以下「タカ」という。)がした相続税の申告に対し、被告が、平成六年七月二九日付けで各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、これと本件各更正処分とを合わせて「本件課税処分」という。)をしたことについて、原告らが、本件各更正処分は、三郎の有する有限会社保谷三郎商会(以下「保谷三郎商会」という。)の出資(持分)を相続財産として評価するに当たり、相続財産の評価方法等を定めた財産評価基本通達に法人税等相当額を控除してすると定められているのに、これを控除せずに評価した違法があり、このような違法な更正処分を前提としてされた本件各賦課決定処分も違法であるとして、本件課税処分の取消しを求めたものである。

一  争いのない事実等(末尾に証拠等の記載のないものは、当事者間に争いがない。)

1  当事者等

三郎は、川崎市川崎区日進町において、漬物製造販売業を営んでいたが、平成四年二月一一日死亡し、妻であるタカ、長男である保谷健治及び二男である原告忠夫が三郎を相続した(以下、これらの相続人を「本件相続人ら」という。)。その後、保谷健治は平成四年二月二五日死亡し、妻である保谷みつ、長女である松塚静江及び長男である保谷敬司が保谷健治を相続した。

2  三郎の保谷三郎商会の出資と相続財産の評価

(一) 三郎は、死亡時、不動産、預貯金等の財産を有していたが、そのうち、保谷三郎商会の出資として、九九九九口を有していた。この保谷三郎商会は、平成二年八月設立された非上場の有限会社であり、三郎が代表取締役を務めていた。(甲九の一、原告保谷忠夫本人尋問の結果、弁論の全趣旨)

(二) 相続財産の評価については、国税庁長官が各国税局長宛に発した財産評価基本通達(昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七(平成六年六月二七日付け課評二-八・課資二-一一三による改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。))がある。

この評価基本通達によれば、取引相場のない有限会社の出資の評価については、取引相場のない株式の評価に準じて計算した価額によって評価するものとされ(評価基本通達一九四)、取引相場のない株式については、小会社の場合のほか、開業後三年未満の会社の場合について、純資産価額方式によって評価するものとされている(評価基本通達一八九)。この純資産価額方式による評価とは、評価会社の課税時期における各資産を評価基本通達に基づいて評価した価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額を控除し、さらにそこから評価差額(課税時期における相続税評価額による純資産価額から右純資産価額の計算の基とした各資産の帳簿価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額を控除した金額を控除した残額がある場合におけるその残額)に対する法人税等相当額(評価差額の五一パーセント相当額)を控除して、評価会社の一株当たりの価額を算定する方法である(評価基本通達一八五、一八六-二)。

保谷三郎商会は、取引相場のない有限会社であり、しかも開業後三年未満の会社であるから、その出資の評価については、右の純資産価額方式が適用される。

(三) そこで、以上の評価基本通達の定めを形式的に適用すると、本件相続時、保谷三郎商会の純資産価額は一〇億五〇八二万二〇〇〇円であったので、評価差額に対する法人税等相当額はその五一パーセントの四億八七六三万六〇〇〇円となり、これを右の純資産価額から控除すると、その残額は五億六三一八万六〇〇〇円となる(詳細は別表記載のとおり)。(弁論の全趣旨)

3  本件課税処分の経緯

本件課税処分の経緯は、別表一、二「本件課税処分等の経緯」記載のとおりである。すなわち、

(一) 本件相続人らの相続税の申告

タカ及び原告忠夫は、三郎が有していた保谷三郎商会の出資を評価するに当たり、評価基本通達をそのまま適用し、一口当たりの純資産価額の計算上法人税等相当額を控除してこれを算定し、原告忠夫は課税価格を二億二七〇六万二〇〇〇円、納付すべき税額を六八六〇万一二〇〇円と、タカは課税価格を二億九六四五万三〇〇〇円、納付すべき税額を零円とそれぞれ申告した。その後、タカは、平成五年一〇月二〇日死亡し、国税通則法(以下「通則法」という。)五条一項の規定により、同人の共同相続人である原告忠夫、養女の原告保谷洋子及び保谷健治の代襲相続人松塚静江と保谷敬司がタカに係る国税の納付義務を承継した。

(二) 本件課税処分

被告は、タカ及び原告忠夫の三郎に係る相続税の申告に対し、いずれも、三郎が有していた保谷三郎商会の出資の評価に当たり、法人税等相当額を控除せず、平成六年七月二九日付けで、原告忠夫の課税価格を二億〇一四二万一〇〇〇円、納付すべき相続税額を七九八六万八〇〇〇円と、タカの課税価格を七億八七八一万二〇〇〇円、納付すべき相続税額を一億〇三八九万〇九〇〇円とする各更正処分をするとともに、原告忠夫に係る過少申告加算税の額を一一二万六〇〇〇円と、タカに係る過少申告加算税の額を一五五五万八五〇〇円とする各賦課決定処分をし、原告らに通知した。

(三) 原告らの不服申立て

原告らは、本件課税処分を不服として、平成六年九月二九日、異議申立てをしたところ、被告は、平成六年一二月二二日付けで、これを棄却する旨の異議決定をし、そのころ、右決定書謄本を原告らに送達した。

原告らは、これを不服として、平成七年一月二〇日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、平成八年六月二七日付けでこれを棄却する旨の裁決をし、同年七月二日ころ、右裁決書謄本を原告らに送達した。

二  本件の争点と双方の主張

本件の争点は、三郎の有していた保谷三郎商会の出資口数九九九九口を相続財産として評価するに当たり、評価基本通達を形式的にそのまま適用し、一口当たりの純資産価額の計算上法人税等相当額を控除すべきか否かである。

これについての双方の主張は以下のとおりである。

1  被告の主張

(一) 相続税法(以下「法」という。)二二条は、相続財産の価額は「財産の取得の時における時価」による旨定めており、時価とは、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的交換価値である。そして、課税実務上「時価」として取り扱うべき価額は、その算定の一般的基準が評価基本通達によって定められており、その基準は、財産の種類の異なるごとに、それぞれの財産の本質に応じた合理的な算定方法を定め、これを画一的に適用することにより租税負担の平等を実現しようとしたものである。このように、評価基本通達に定められた評価方式は、これを適用して時価を算定することが合理的であり、租税負担の実質的な公平を実現することができることが基本前提となっている。したがって、評価基本通達に定める評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって租税負担の公平を著しく害することが明らかである等の特別の事情がある場合には、「時価」の算定に当たり、評価基本通達に定める評価方式を形式的に適用するべきではない。「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定めた評価基本通達六は、この理を明らかにしたものといえる。

(二) 保谷三郎商会の出資は、取引相場のない有限会社の出資であり、このような取引相場のない有限会社の出資の価額は、取引相場のない株式の評価に準じて計算した価額によって評価することとされている(評価基本通達一九四)。また、評価基本通達は、小会社の場合のほか、開業後三年未満の会社の場合には、会社の純資産に着目して純資産価額方式によって評価するものとしている。保谷三郎商会はこの両方の要件を満たす会社であるから、純資産価額方式によって評価することになる。したがって、通常であれば、法人税等相当額が控除されることになる。

しかし、本件において、評価基本通達を形式的に適用し、評価差額に対する法人税等相当額を控除することは、租税負担の実質的公平を害すると認められるから、評価基本通達によらないことが相当と認められるような特別の事情(評価基本通達六)が存在する場合に当たる。すなわち、保谷三郎商会における評価差額は、保谷三郎商会の設立に当たり、三郎が、その有する有限会社フェアネス(以下「フェアネス」という。)の出資をその純資産額に比して著しく低い帳簿価額による現物出資として受け入れたことだけによって発生したものにすぎない。このように、三郎は、一五億円という異常な多額の借入をし、フェアネスを設立した上、三郎の有する右フェアネスの出資を著しく低い帳簿価額によって現物出資して保谷三郎商会を設立したのであるが、そのような一連の行為には、何ら経済的合理性はなく、しかも、その後の合併、減資により、右借入れによる債務を消滅することが計画されていたものである。評価基本通達一八五、一八六-二は、評価差額を法人税法九二条の清算所得とみなし、その清算所得に対する法人税等相当額を控除することにより、株式の所有を通じて間接的に資産を所有している場合と個人事業主が個々の事業用資産を直接所有している場合との均衡を図ったものであるから、本件のように、法人税等相当額の控除を受けるためだけに評価差額を創出し、しかも清算所得への課税もされないように計画された行為にまで、この規定を適用することは、右のような均衡を図った趣旨にも反することになる。

したがって、本件で、評価基本通達を形式的に適用して、不自然な行為によって創出した評価差額に対する法人税等相当額を控除することは、租税負担の実質的公平を害することは明白である。

(三) そして、被告が主張する本件相続人らの相続税の課税価格及び納付すべき相続税額は、別紙「本件各更正処分の根拠」記載のとおりである。

2  原告らの主張

被告の主張(三)のうち、保谷三郎商会の出資(持分)の価額(別表5の符号1)及びその価額が異なることにより計算上異なってくる額は争い、その余は認める。

保谷三郎商会の出資(持分)の価額は次のとおり評価基本通達どおりに算出されるべきであり、原告らの相続税の申告に誤りはない。

(一) 法人税等相当額の控除の趣旨は、個人が個人事業主として会社財産を直接所有する場合と個人が株式や出資の所有を通じて会社財産を間接所有する場合との所有形態の差を経済的に同一の条件の下に置き換え、評価の均衡を図る点にある。本件も、被相続人である三郎は、法人の出資を保有しているのであるから、右の趣旨が妥当し、評価差額に対する法人税等相当額を控除すべきことは明らかである。そもそも、本件は、巷間行われている相続税対策の一事例であり、否認の対象となるものではない。すなわち、これまで、株式等の評価方法の仕組みを利用すると同額の現金を保有している場合よりも低い評価になることに着目して、借金をして現金を作り、その現金を出資して会社を設立し、その会社の株式等を相続させ、相続開始後にその株式等を現金化することによって、相続税を軽減しようとすることが行われてきた。従来はこのような現物出資の繰り返しについてなんの限定もなかったため、一律に法人税等相続額が控除されていた。そのため、このような相続税対策が横行した。このような行き過ぎた相続税対策に歯止めをかけるため、国税庁は、平成二年八月財産評価基本通達の改正を行い、従来無制限であった評価差額に対する法人税等相当額の控除を一度だけに限定して認めることとし、さらに、平成六年六月再度通達改正を行い、取引相場のない株式を現物出資した場合に限って、評価差額について法人税等相当額の控除を認めないことにした。本件は、平成四年二月一一日に開始した保谷三郎の相続に係る申告の問題であるから、法人税等相当額の控除を一度だけは用いることができた事例である。したがって、原告らの相続税申告は間違っておらず、更正される理由はない。

(二) 被告は、評価基本通達によらない特別の事情が存在すると主張する。しかし、本件において、このような特別の事情は存在しない。すなわち、三郎は、一五億円を借り入れてフェアネスを設立し、同社の出資を現物出資して、保谷三郎商会を設立しており、会社設立を用いた相続税対策の一部を行っていると見ることはできる。しかし、原告ら相続人は、現在もこの設立された会社の出資を有しているのであって、合併とか減資といった手続は一切行っていない。会社に対してした出資をどのような意味においても現金化していないのである。そうであるならば、本件は、保谷三郎商会の会社の出資を相続以後保有しているのであるから、評価基本通達の原則に従って評価がされるべきである。本件は、一五億円を借り入れてそのまま現金を持っていた場合とは明らかに異なる事例であって、およそ特別の事情があるとはいえない。

また、被告は、原告が大和証券らの提案に従って一五億円を借り入れ、フェアネスと保谷三郎商会を設立することによって相続財産の評価を下げたこと、及び保谷三郎商会がフェアネスを吸収合併した後減資して資本の払戻しを行う計画があったことを理由として評価基本通達をそのまま適用すべきではないと主張する。しかし、課税時期に保谷三郎商会の出資が相続財産として存在したのであるから、これに評価基本通達をそのまま適用して評価するのが原則的取扱いである。この場合、仮にその会社が個人商店といえるようなものであっても、被相続人が会社の出資という形で所有している以上、間接所有として評価すべきであるし、その会社の設立目的、過去の営業実績、将来の営業見通し、設立後の年数、将来の組織変更の計画、解散の予定等の事情を問うことなく、一律に右の評価方法を適用して評価がされるべきである。もっとも、特別の事情があれば、評価基本通達によらないこともできる。しかし、この特別の事情があるかどうかは、前示のとおり、経済的実質を直視し、原則的方法によれば経済的実質と著しく乖離した取扱いになるかどうか、また、実質的不平等が生じるかどうかにより判断されるべきである。ところが、本件においては、原告らは出資をそのまま保有しており、合併や減資など全くしていないのであるから、経済的実質を見ても特別の事情といえるようなものはない。また、被告主張のように評価した場合には、原告らには担税力がない。被告は、大和証券らの提案の中に、合併とそれに続く減資の計画があったことを問題にしているが、実際にはこのような経過をたどっていない。計画があったということだけで課税するのは、主観のみに対する課税であり、主観を罰するようなものであって、合理的なものとはいえない。加えて、評価基本通達を適用しないというのであれば、時価をどのように評価するというのか明らかにしなければならないが、それが不明である。したがって、被告の主張は失当である。

第三当裁判所の判断

一  相続財産としての相場のない株式(出資)の評価方法

法二二条は、「特別の定のあるものを除く外、相続、遺贈又は贈与に因り取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。」と規定し、いわゆる時価主義の原則を定め、時価の内容を法律の解釈に委ねている。しかし、相続税の課税対象となる財産は、土地、家屋などの不動産をはじめとして、動産、知的財産権、有価証券など多種多様であり、これら各種の財産の時価を的確に把握することは必ずしも容易でない。そこで、課税実務では、相続税における財産の評価基本通達を定め、各財産の評価方法に共通する原則や各種の財産の評価単位ごとの評価のやり方を具体的に規定し、課税の統一、公平を図っている。評価基本通達は、このような目的で定められたものである。

この評価基本通達は、取引相場のない株式の評価方法について、評価しようとする株式の発行会社(以下「評価会社」という。)をその事業規模に応じて大会社、中会社、小会社に区分し(評価基本通達一七八)、それぞれの会社に適用すべき原則的評価方式を定めている(評価基本通達一七九)。すなわち、上場会社に匹敵するような大会社においては、上場会社の株価を参考にして取引されるのが通常と考えられ、その株式の交換価値は、上場会社の株式の評価との均衡を図ることが合理的であると認められることから、原則として、類似業種比準方式(評価会社の配当、利益及び純資産の各要素を評価会社と事業内容が類似する上場会社のそれらの平均値と比較の上、上場会社の株価に比準して評価会社の一株当たりの価額を算定する方法。評価基本通達一八〇)により評価するものとされる。次に、個人企業とそれほど変わるところがない小会社の株式は、その会社の資産に着目して取引されるのが通常であり、その株式の評価は、個人企業者の事業用財産の評価との均衡を図ることが合理的であると認められることから、原則として、純資産価額方式(第二の一2(二))により評価するものとされる。さらに、大会社と小会社との中間にある中会社の株式については、大会社と小会社との要素を併せ持つ会社であると認められることから、大会社と小会社の評価方式の併用方式によって評価するものと定めている。そして、従業員株主に代表される同族株主以外の株主等は、一般に持株割合が僅少で会社の事業経営に対する影響力が少なく、ただ単に配当を期待するにとどまるといった実質を有するほか、株式の価額を原則的評価方式により算定することは多大の労力を要することから、評価手続の簡便性をも考慮し、原則的評価方式に代えて、特例的評価方式である配当還元方式(株価構成要素のうち配当金だけに着目して、配当金を収益還元することによりその元本である株式の価額を算定する方法。評価基本通達一八八-二)により評価することとしている(評価基本通達一七八ただし書)。そして、取引相場のない有限会社の出資の評価については、右のような取引相場のない株式の評価に準じて計算した価額によって評価するものとされている(評価基本通達一九四)。

以上のような取引相場のない株式(以下、「出資」を含めたものとしていう。)の評価についての評価基本通達の定めは、評価会社の事業規模及び特性に応じて評価方式を使い分けるものであり、評価会社の実態に即した評価を行うものとして、合理的であると認められる。

二  法人税等相当額の控除

1  法人税等相当額の控除の趣旨

ところで、評価基本通達は、純資産価額方式によって小会社の株式を評価する際に、法人税等相当額として評価差額の五一パーセント相当額を控除することとしている(評価基本通達一八五、一八六-二)。これは、例えば、評価会社が被相続人の個人的な資質や能力に依存していたいわゆるワン・マン会社であって、相続の開始によって事業の継続が不可能になる場合や相続人が会社の資産を自己のために自由に利用あるいは処分したい場合には、会社を解散、清算することにより被相続人が所有した株式数に見合う財産を手にするほかないところ、その場合に、法人に清算所得(いわゆる含み益)があった場合には、その清算所得に対して法人税等が課されるため、個人事業者が直接に事業用資産を所有している場合に比して法人税等相当額分だけ実質的な取り分が減少することになることから、このような株式の評価に当たって、個人が株式の所有を通じて会社の資産を間接的に所有している場合と個人事業主として直接に事業用資産を所有する場合とで両者の所有形態を経済的に同一の条件の下に置き換えた上で評価の均衡を図る必要があるとの考えから、昭和四七年に設けられたものである。

このような評価基本通達の定めは、あくまで個人が株式の所有を通じて会社の資産を間接的に所有している場合と、個人事業主が直接に事業用資産を所有する場合との評価の均衡を図ろうとする趣旨に出たものであるから、評価基本通達が法人税等相当額を控除することとしていることを利用して、ことさら評価差額を作出し、それにより相続税の軽減を図ろうとしているような場合は、評価基本通達を形式的、画一的に適用し法人税等相当額を控除することは、評価基本通達の趣旨にそぐわないばかりか、評価基本通達の意図する課税の公平という精神にも反する結果となるものといわなければならない。したがって、そのような場合は、評価基本通達によらないことが相当と認められるような特別の事情(評価基本通達六)があるものといわなければならない。

2  法人税等相当額の控除に関連する本件の事情

そこで、評価基本通達によらないのを相当とする特別の事情の有無を本件についてみるに、前記争いのない事実及び証拠(甲八、九ないし二四の各一・二、乙一ないし四、六、七の各一ないし六、原告保谷忠夫本人尋問の結果、弁論の全趣旨)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告忠夫は、川崎市川崎区日進町において、父三郎の営む漬物製造販売業を手伝っていたが、明治四二年生まれの三郎が高齢となり、しかも土地価格が高騰するにつれ、その相続税対策を思案するようになり、平成元年春ころ、大和証券蒲田支店の社員に相続問題について相談をもちかけるようになった。これに対し、大和証券の社員は、借金をして株に投資すれば相続税は半分になるなどと述べ、熱心に相続税対策の提案をし、税理士(小川湧三)も紹介するようになった。

(二) そして、大和証券は、平成二年六月上旬、原告忠夫に対し、相続税対策の仕組み(以下「スキーム」という。)として、乙二の書面により、大和証券考案のA案、小川税理士考案のB、C案の三案を提示してきた。原告忠夫は、この書面を見た上、大和証券が考案したA案を選択し、三郎の了解を得た。この大和證券考案のスキームは、(1) 親が多額の資金を出資して法人(第一法人)を設立する、(2) 第一法人の株式(出資)を著しく低い価額で現物出資することにより資本金一億円の第二法人を設立する、(3) 第二法人が第一法人を吸収合併する、(4) 親子間において、第二法人の株式(出資)を相続税評価額(類似業種比準方式による価額)によって売買する、(5) 第二法人の減資により、親が出資した資金を子が取得する、というものであり、仮にこれにより一五億円を借りて、資本金一億円の第二法人を設立すると、相続税は、七億六四九六万四〇〇〇円が三〇七九万三〇〇〇円になるとのことであった。そして、双方の話し合いで、第一法人は株式の投資を扱う会社に、第二法人は駐車場の管理を行う会社にそれぞれすることになった。

(三) そこで、三郎は、平成二年七月一〇日、原告忠夫を連帯保証人として、東海銀行から一五億円(利率年八パーセント)を借り入れた。三郎は、右の借入金を出資して、平成二年七月一一日、資本金一五億円のフェアネスを設立し、代表取締役に就任した。出資口数は一五万口に分けられ、出資一口当たり一万円の引受価額で、定款上は、三郎名義で一四万九九八五口、原告忠夫名義で一五口が引き受けられた。三郎が借り入れた一五億円は、平成二年七月一一日、フェアネスの普通預金口座に振り込まれた。次に、三郎は、フェアネスの設立の約一か月後である平成二年八月八日、フェアネスの自己名義の出資口数一四万九九八五口及び原告忠夫名義の出資口数一五口の合計一五万口を現物出資することにより、資本金一億円の保谷三郎商会を設立し、代表取締役に就任した。同社の定款によれば、その出資口数は一万口(金額一万円)に分けられ、フェアネスの出資口数を保谷三郎商会に現物出資したとして、三郎に対しては保谷三郎商会の出資口数九九九九口、原告忠夫に対しては同一口が与えられた旨が記載された。

(四) フェアネスは、設立後、大和投資顧問、共同投資顧問に委託手数料を支払って、一任勘定による株式の投資を委託した。一方、保谷三郎商会は、三郎が所有していた土地に立体式駐車場を設置し、駐車場の管理運営を行おうとしたが、立体式駐車場設置の資金を金融機関から借り入れることができなかったため、株式会社ミクニ(原告忠夫経営)名義でこれを借り入れ、同社の設置した立体式駐車場を利用して、駐車場の管理運営を行うようになった。三郎らは、当初、このフェアネスの株式の投資による利益により納税資金を蓄える予定であったが、いわゆるバブル経済がはじけ、株価が下落し始めたことから、右の株式投資は損失を出すばかりで、平成二年末には五億円の損失を計上するまでになった。

(五) このような状況が続く中で、三郎は、平成四年二月一一日死亡した。このため、前記の相続対策のスキームは、最後の段階にまで至ることのないままに終わった。そして、フェアネスは、平成四年八月ころ、投資顧問契約を解約したが、そのころには一五億円を投資した株式は八億円に目減りしていた。原告忠夫は、これを一五億円の借入金の返済に充てたほか、土地を売却して資金を作り、さらに五億円を返済したが、なお二億五〇〇〇万円の借入金が残っている。このような状況のため、現在フェアネスは株式の投資を行っていないが、保谷三郎商会は、立体式駐車場による駐車場の管理運営を行っている。ちなみに、フェアネスの法人税の確定申告書によれば、同社の所得金額は、平成二年七月一一日から同年一〇月三一日までの事業年度は、二億九四六一万三四九八円の欠損金額、平成二年一一月一日から平成三年一〇月三一日までの事業年度は欠損金の当期控除額二三万五一〇六円を控除して所得金額は零円、平成三年一一月一日から平成四年一〇月三一日までの事業年度は三億四四七四万三三三一円の欠損金額であり、利益を上げていない。また、保谷三郎商会の法人税の確定申告書によれば、同社の所得金額は、平成二年八月八日から同年一〇月三一日までの事業年度は一五三万二五三九円の欠損金額、平成二年一一月一日から平成三年一〇月三一日までの事業年度は四六万九三七二円の欠損金額、平成三年一一月一日から平成四年一〇月三一日までの事業年度は欠損金の当期控除額九一万九〇六三円を控除して所得金額は零円であり、利益を上げていない。

(六) 仮に、三郎に係る相続税の課税価格の計算上、保谷三郎商会の出資の価額を評価基本通達の規定により評価される五億六〇〇〇万円として相続財産に計上する一方、その取得資金である本件借入金一五億円をそのまま債務として計上すると、当該債務のうち保谷三郎商会の出資の価額から控除しきれない約一〇億円の債務が他の相続財産の価額から控除されることとなるので、三郎が本件借入金によりフェアネス及び保谷三郎商会を設立しなかった場合に比べて、課税価格が約九億円圧縮され、相続税の負担総額も約五億円軽減される結果となる。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  法人税等相当額控除の適否

1  一連の行為の性質

二2認定の事実によれば、一五億円の借入れに始まる三郎の一連の行為は、大和証券が考案した、相続税の負担を大幅に軽減することを目的としたスキームに基づくものであることが明らかである。すなわち、右スキームは、被相続人が一五億円の借入れをして一五億円の消極財産を作り、右借入金を用いて第一法人を設立し、次いで第一法人の出資(持分)を著しく低い価額で評価し、その現物出資により第二法人を設立し、第二法人は第一法人を吸収合併し、さらに被相続人は、第二法人の出資(持分)を相続人に売却し、第二法人は減資をするというものであるが、これは、評価基本通達が純資産方式による出資の評価に際し評価差額に対する法人税等相当額を控除すると定めていることを利用して、第一法人の出資を著しく低い価額で第二法人に現物出資することにより、第二法人に純資産額と帳簿価額との差額(評価差額)を作出し、第二法人の出資についての相続税の課税対象額を大幅に減少させるとともに、第一法人と第二法人の合併と減資によって、最終的に被相続人が投下した資金を相続人が回収しようとするものである。本件の場合、前記認定のとおり、右スキームは、第一法人であるフェアネスの出資を著しく低い価額で現物出資して第二法人である保谷三郎商会を設立した段階までが実行されたにとどまるが、それでも、相続税の負担額は、三郎が本件借入金によりフェアネス及び保谷三郎商会を設立しなかった場合に比べて、約五億円も軽減する結果となる。また、三郎は、一五億円の借入れをしてフェアネスを設立し、フェアネスの出資(持分)を現物出資して、保谷三郎商会を設立しているが、もともと現物出資により法人を設立する場合、当該法人は現物出資を受けた財産を基本財産として独立した経済主体として経済活動を行うことが予定されているところ、立体式駐車場の管理運営を目的とする保谷三郎商会が、取引相場のないフェアネスの出資を現物出資により受け入れる必要性も合理性も見い出し難い。さらに、保谷三郎商会は、立体式駐車場の管理運営を行うことを目的として設立されたというが、立体式駐車場を設置する資金の借入れができず、原告忠夫の経営する株式会社ミクニが借入れを行って立体駐車場を設置したというのであり、そうであれば株式会社ミクニが立体式駐車場の管理運営を行えばよいのであって、わざわざ三郎が保谷三郎商会を設立する必要など毛頭ないはずである。結局、三郎が、多額の借入れをして設立したフェアネスの出資を著しく低い価額で現物出資して保谷三郎商会を設立したことに経済的合理性はない。

以上を要するに、三郎が多額の借入れをして消極財産を作った上、借入金によって設立したフェアネスの出資を著しく低い価額で現物出資して保谷三郎商会を設立したのは、これにより保谷三郎商会の評価差額を作出し、評価基本通達の法人税等相当額控除の規定を利用することによって、相続財産の評価を大きく下げることを目的としたものというべきである。そして、これにより、三郎の所有する財産の価値にはほとんど変動がないにもかかわらず、三郎の相続人の相続税額は大幅に軽減されることになるのであり、かつ、右の保谷三郎商会の設立は、現実の経済的活動を主目的とする会社設立というよりも、専ら租税回避のためにする外形上の会社の作出というに等しいので、社会通念に照らし、このような場合に、評価基本通達を形式的、画一的に適用し、法人税等相当額を控除することは、前示のような評価基本通達の趣旨に沿わないのみならず、一般の納税者との間の公平を著しく害し、相当でないといわなければならない。したがって、本件においては、評価基本通達をそのまま適用しないことが相当と認められるような特別の事情(評価基本通達六)があるというべきである。

2  法人税相当額を控除しないことと「時価」との関係

株式等の理論的、客観的な価値は、会社の純資産の価額を発行済株式数で除したものと考えられるところ、純資産価額方式は、取引相場のない会社の株式等の評価方法として高い合理性を有するものであるから、保谷三郎商会のような取引相場のない会社の出資を評価する場合に、純資産価額方式を基本とすることは合理性があるというべきである。そして、法人税等相当額を控除する趣旨が、前示のとおり、個人が法人資産を直接所有している場合と、株式等を所有することにより間接的に法人資産を所有する場合とでは、資産処分等による資金の回収に差異があることから、法二二条にいう時価の算定上、その均衡を図るため、会社を解散して事業用資産を売却し解散に伴う清算所得に係る法人税等を支払った後に残る金額を想定し、その金額をもって相続により取得した法人の出資(持分)についての財産価値と評価しようとしたもの、換言すれば、評価の対象である会社の資産が時の経過とともに値上がりにより帳簿価格を上回って、評価差額すなわち含み益が現に生じた場合には、帳簿価格と含み益の合計額をもって純資産とした上で、これから、株式等を通じた会社の間接所有であることの制約から来る評価上の減算要素として法人税等相当額を控除することとして、個人が法人資産を直接所有している場合と株式等を所有することにより間接的に法人資産を所有する場合との均衡を図ったものであることに照らすと、本件のように、保谷三郎商会の設立に当たり、フェアネスの出資をフェアネスの純資産額に比して著しく低い帳簿価額で現物出資したことだけによって生じた保谷三郎商会の評価差額(含み益)について、法人税等相当額を控除する根拠はないといわなければならない。したがって、本件においては、純資産価額方式によりつつ、法人税等相当額を控除せずに評価したことにより得られた価額が、法二二条にいう時価に当たるというべきである。

四  原告らの主張に対する判断

原告らは、被告は、合併とそれに続く減資の計画があったことを問題とし、そのような計画があったということだけで課税しているとして、このような課税は、主観に対する課税であり、合理的なものとはいえないと主張する。しかし、前示のとおり、本件は、三郎のした租税回避のための一連の行為(保谷三郎商会設立までの行為)及びそのもたらす客観的な結果を踏まえて、結局、これが評価基本通達にいう特別の事情に当たるとして、法人税等相当額を控除せずに出資を評価したものであり、主観のみに依拠して評価、課税したものとはいえない。

また、原告らは、評価基本通達にいう特別の事情に当たるかどうかは、経済的実質を直視して判断すべきであり、本件のように、出資をそのまま保有しており、合併や減資を全くしていない場合には、評価基本通達六の特別の事情があるということはできないと主張する。しかし、大和証券が考案した租税回避のためのスキームは二段階に分かれており、第一段階として、第一法人と第二法人を設立することによって、第二法人の評価差額を作出し、これに法人税等相当額の控除の制度を利用して相続税の負担を軽減させ、第二段階として、第一法人と第二法人の合併、減資によって、被相続人が投下した資金の回収を図るというものであって、本件においては、このうち第一段階までが実行されたにとどまり、第二段階が実行されていないことは原告らの指摘するとおりであるけれども、第一段階が終わった時点においても、すでに約五億円の相続税の負担が軽減されることになるのであるから、評価基本通達六の特別の事情に当たるかどうかの判断に際し、経済的実質を直視して判断すべきであるとする原告らの立場に立ったとしても、原告らが経済的利益を得ていることは明らかであり、特別の事情があるとすることに妨げはないというべきである。なお、原告らは、一五億円の借入れを返済するのに、不動産を処分するなどし、結局、租税回避どころか、多額の損害を被るに至ったというが、これはフェアネスの行った株式投資が失敗したことに起因するものであり、租税回避のためのスキームそのものとは無関係のことであるから、これにより原告らが損害を受け、租税回避に当たるような利益を受けていないからといって、これを理由に、右の特別の事情に当たらないとすることはできない。

さらに、原告らは、大和證券によって考案されたスキームについては、三郎ないし原告忠夫はその詳細な仕組みすら理解しておらず、まして税務上のリスクがあるなどとは説明もされていなかったとして、本件において、評価基本通達六の特別の事情があるとすることは酷であるかのように主張する。しかし、前記認定のとおり、原告忠夫は、大和證券の社員から、スキームの内容を記載した書面を示されてその内容についての説明を受け、保谷三郎商会の設立が経済的合理性のある企業活動を伴わないものであり、かつ、右スキームの実行によって相続税の負担が大幅に軽減すると知ってその実行を決意し、三郎の了解を得ているのであるから、たとえ三郎及び原告忠夫が本件スキームの詳細な仕組みは理解しておらず、また、それに税務上のリスクがあることを知らなかったとしても、右の特別の事情に当たるとすることに格別問題はないというべきである。

五  本件課税処分の適否

以上によれば、原告忠夫らの納付すべき相続税額は、別紙「本件各更正処分の根拠」記載のとおり、タカが一億〇三九五万円、原告忠夫が七九八八万六七〇〇円となるところ、本件各更正処分に係る原告忠夫らが納付すべき相続税額は、タカが一億〇三八九万〇九〇〇円、原告忠夫が七九八六万八〇〇〇円であり、いずれも右金額の範囲内であるから、本件各更正処分は適法である。

そして、タカは、三郎に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を過少に申告していたものであり、過少に申告したことについて、通則法六五条四項に規定する正当な理由が存在することについて主張立証はないから、通則法六五条一項の規定により、本件更正処分によってタカが新たに納付すべきこととなった税額(ただし、通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数切り捨て後のもの)である一億〇三八九万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額一〇三八万九〇〇〇円と、同条二項の規定により、タカが本件更正処分により新たに納付すべきこととなった税額のうち五〇万円を超える部分に相当する金額(ただし、通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数切り捨て後のもの)である一億〇三三九万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額五一六万九五〇〇円とを合計した一五五五万八五〇〇円を過少申告加算税として賦課決定した本件賦課決定処分は適法である。

また、原告忠夫は、三郎に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を過少に申告していたものであり、過少に申告したことについて、通則法六五条四項に規定する正当な理由が存在することについて主張立証はないから、通則法六五条一項の規定により、本件更正処分によって原告忠夫が新たに納付すべきこととなった税額(ただし、通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数切り捨て後のもの)である一一二六万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額一一二万六〇〇〇円を過少申告加算税として賦課決定した本件賦課決定処分は適法である。

六  結論

よって、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 近藤壽邦 裁判官 弘中聡浩)

別表 (1)保谷三郎商会の1口当たりの純資産価額の計算明細書(評価基本通達に基づく)

〈省略〉

(2) フェアネスの1口当たりの純資産価額の計算明細書

〈省略〉

別表一

本件課税処分等の経緯

原告 保谷忠夫分

〈省略〉

別表二

本件課税処分等の経緯

亡 保谷タカ分

〈省略〉

(別紙)

本件各更正処分の根拠

被告が本訴で主張する本件相続人らの相続税の課税価格及び納付すべき相続税額は、別表1「課税価格等の計算明細表」及び別表2「税額算出表」に記載したとおりであり、その内訳等は次のとおりである。

一 課税価格の合計額(別表1の符号一四の合計額欄の金額)

一〇億五一八七万九〇〇〇円

右金額は、次の1記載の金額から、次の2記載の金額を控除した後の金額(ただし、通則法一一八条一項の規定により、本件相続人ら一名ごとに課税価格の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後の合計額)である。

なお、三郎の相続に係る遺産分割協議の結果、タカが保谷健治に対し負担することとなった代償金四四〇〇万円は、別表1の符号7の保谷タカ欄で控除し、保谷健治がタカから受領した代償金四四〇〇万円は、別表1の符号7の保谷健治欄に記載した。

1 相続により取得した財産の総額(別表1の符号8の合計額欄の金額)

二六億二五八八万九九三〇円

右金額は、本件相続人らが相続により取得した財産の総額であり、その内訳は次のとおりである。

(一) 土地の価額(別表1の符号1の合計額欄の金額)

一四億八八九八万六二〇一円

右金額の内訳は別表3記載のとおりであり、このうち、同表の符号7、8及び13ないし15の金額は、本件期限内申告書に記載されている金額(以下「期限内申告額」という。)と同額である。

(二) 家屋の価額(別表1の符号2の合計額欄の金額)

六八六万八二二七円

右金額の内訳は別表4記載のとおりであり、本件相続人らの期限内申告額と同額である。

(三) 有価証券の価額(別表1の符号3の合計額欄の金額)

一一億〇〇八九万一四九〇円

右金額の内訳は別表5記載のとおりであり、このうち、同表の符号2ないし6の金額は、本件相続人らの期限内申告額と同額である。

(四) 現金・預金の額(別表1の符号4の合計額欄の金額)

七三七万八一〇〇円

右金額の内訳は別表6記載のとおりであり、このうち、同表の符号1ないし3の金額は、本件相続人らの期限内申告額と同額である。

(五) 家庭用財産の価額(別表1の符号5の合計額欄の金額)

一〇万円

右金額は本件相続人らの期限内申告額と同額である。

(六) その他の財産の価額(別表1の符号6の合計額欄の金額)

二一六六万五九一二円

右金額の内訳は別表7記載のとおりであり、このうち、同表の符号1ないし3の金額は、本件相続人らの期限内申告額と同額である。

2 控除すべき債務等の額(別表1の符号12の合計額欄の金額)

一五億七四〇一万〇五四一円

右金額は、相続税法二二条の規定により、本件相続人らが相続により取得した財産の価額の合計額から控除すべき債務の合計額であり、その内訳は次のとおりである。

(一) 未納公租公課(別表1の符号9の合計額欄の金額)

五八一万四四〇〇円

右金額は、本件相続人らの期限内申告額と同額である。

(二) 借入金(別表1の符号10の合計額欄の金額)

一五億五九三九万七九四四円

右金額の内訳は別表8記載のとおりであり、本件相続人らの期限内申告額と同額である。

(三) 葬式費用(別表1の符号11の合計額欄の金額)

八七九万八一九七円

右金額は、本件相続人らの期限内申告額と同額である。

二 本件相続人らの納付すべき相続税額(別表2の符号10の合計額欄の金額)

二億〇八五九万五八〇〇円

右金額は、相続税法一五条、一六条、一七条及び一九条の二(一五条及び一六条については、いずれも平成四年法律第一六号による改正後のもので平成六年法律第二三号による改正前のもの並びに一九条の二については、平成六年法律第二三号による改正前のもの。以下同じ。)の各規定により、次のとおり算定したものである。

1 本件相続人らの課税価格の合計額(別表2の符号1の合計額欄の金額)

一〇億五一八七万九〇〇〇円

右金額は、前記一記載の金額である。

2 遺産に係る基礎控除額(別表2の符号2の合計額欄の金額)

七六五〇万円

右金額は、相続税の課税価格の合計額から控除すべき基礎控除額であり、相続税法一五条の規定により、四八〇〇万円と、九五〇万円に本件相続人らの人数である三を乗じて算出した二八五〇万円との合計額である。

3 課税遺産総額(別表2の符号3の合計額欄の金額)

九億七五三七万九〇〇〇円

右金額は、右1の金額から右2の金額を控除した金額である。

4 法定相続分に応じた取得金額(別表2の符号5の金額)

(一) タカ(法定相続分二分の一) 四億八七六八万九〇〇〇円

(二) 原告忠夫(法定相続分四分の一) 二億四三八四万四〇〇〇円

(三) 保谷健治(法定相続分四分の一) 二億四三八四万四〇〇〇円

右各金額は、相続税法一六条の規定により、本件相続人らが前記3の金額を法定相続分に応じて取得したものとした場合の取得金額であり、右3の金額に本件相続人らの法定相続分をそれぞれ乗じて算出したもの(ただし、通則法一一八条一項の規定により本件相続人ら各人ごとに一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。

5 相続税の総額(別表2の符号6の合計額欄の金額)

四億一七一九万一八〇〇円

右金額は、右4の(一)ないし(三)の各金額に相続税法一六条の規定により、それぞれ算出した金額の合計額(通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。

6 原告忠夫らの相続税額(別表2の符号8の各金額)

(一) タカ 三億一二五四万五九一九円

(二) 原告忠夫 七九八八万六七四五円

右各金額は、相続税法一七条の規定により、右5の金額に、按分割合(別表2の符号1の各相続人欄の金額を同符号の合計額欄の金額で除した割合)を乗じて算出した金額である。

7 税額控除の額(別表2の符号9の金額)

二億〇八五九万五九〇〇円

右金額は、相続税法一九条の二の規定に基づき、三郎の配偶者であるタカに対し軽減される相続税額であり、その算出の経緯は、別表9記載のとおりである。

8 原告忠夫らの納付すべき相続税額(別表2の符号10の各金額)

(一) タカ 一億〇三九五万円

(二) 原告忠夫 七九八八万六七〇〇円

右各金額は、右6の金額から右7の金額を控除した後の金額(通則法一一九条一項の規定により、一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。

別表1 課税価格等の計算明細表

〈省略〉

別表2 税額算出表

〈省略〉

別表3 土地の価額の明細表

〈省略〉

別表4 家屋の価額の明細表

〈省略〉

別表5 有価証券の価額の明細表

〈省略〉

別表6 現金、預貯金等の明細表

〈省略〉

別表7 その他の財産の価額の明細表

〈省略〉

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